炭火がなぜ美味しいのか?炭火の魅力に迫る
それでも炭を焚いているのは、ガスの火では届かないところがあるからです。では、何がどう違うのか。調べてみたら、思っていたより面白いことが分かりました。
ガスは、燃えると水になる
いちばん意外だったところから、お話しします。
都市ガスの主な成分はメタン、プロパンガスはプロパンです。どちらも炭素と水素でできた気体で、燃えるというのは酸素と結びつくことですから、炭素は二酸化炭素に、水素は水になります。中学校の理科で習う話です。
どれくらい出るのか。灯油なら、一リットル燃やすとおよそ一リットルの水ができます。同じだけの熱を出すときで比べると、水がいちばん多く出るのは都市ガスでした。
つまり、ガスの炎の上には、目に見えない湯気が立ちのぼっています。焼いているあいだじゅう、湿った空気が身に当たり続けている、ということです。
炭は、そうなりません。炭を焼くという仕事は、そもそも木から水分と、煙になる成分を追い出して、炭素だけを残す作業だからです。窯の中でひと仕事終えたあとの炭には、もう水になるものがほとんど残っていません。
木炭は水分を含まないため、カラッとしたパリパリ感のある焼き上がりとなります
林野庁「木炭の性質」より
国の役所の文章です。うなぎの皮目のことを思いながら読むと、ずいぶん的確な言葉だと思います。
炭の熱は、七割五分が光で届く
もうひとつ、熱の届き方が違います。
熱の伝わり方には二通りあります。温まった空気が運んでいくものと、光のようにまっすぐ飛んで、当たったものを直に温めるもの。焚き火に手をかざすと、まわりの空気は冷たいのに手のひらだけが熱くなります。あれが後者です。
日本家政学会誌に載った研究が、熱源ごとにこの割合を測っています。炭火は、熱のおよそ七割五分がまっすぐ飛ぶほうでした。ガスバーナーは、この割合が目立って低い。
炭火の熱のうち、まっすぐ飛んで
食材を直に温める分(日本家政学会誌)
昔から「強火の遠火」と言います。強い火で、しかし離して焼け、という教えです。空気で温めるのではなく熱が直に飛んでくるから、離しても届く。炭火の焼き場だから生まれた言い方です。
- 燃えると
- 二酸化炭素と水ができる
- 熱の届き方
- 温まった空気が運ぶ分が多い
- 火加減
- つまみの位置で決まる
- 燃えると
- 水になるものが、ほとんど残っていない
- 熱の届き方
- 七割五分が、まっすぐ飛んで直に温める
- 火加減
- 一本ずつ違い、時間とともに変わる
ここからは、正直な話をします
ここまで読むと、炭のほうが上だという話に聞こえます。ところが同じ研究に、こう書いてありました。
ガスバーナーでも、焼網を挟めばまっすぐ飛ぶ熱の割合は炭火と同じくらいまで上がる。そうなると、焼き色や水分の抜け方といった目に見える性質には、炭火で焼いたものと差が見られなくなる、と。
道具でかなりのところまで近づけられる、ということです。炭でなければ焼けない、という話ではありませんでした。嘉門としては、少し分が悪い結果です。
では、何が残るのか。同じ研究には続きがあります。
違っていたのは、香りの中身でした
次の報告で、研究チームは香りを調べています。鶏肉を炭火と、ガスの焼網とで焼いて、立ちのぼる匂いの成分を一つずつ分けました。
炭火で焼いたほうは、香ばしい匂いを持つ成分の割合が多く、好ましくない匂いを持つ成分の割合が少なかった。焼き色も焼き上がりも同じところまで来ているのに、立っている匂いの中身が違っていたわけです。
そのうえで、人に食べ比べてもらっています。結果が、また面白い。統計でいう有意差は出ませんでした。ただし炭火のほうが好まれる傾向があり、匂いの違いは、ちゃんと嗅ぎ分けられていました。
数字には、出なかった。
それでも人は、嗅ぎ分けた。
炭には、目盛りがない
炭は、面倒な火です。ガスはつまみの位置で同じ火が出ますが、炭はそうはいきません。一本ずつ火力が違い、熾ってから落ちるまで、表情が変わり続けます。
嘉門の大将が、うなぎの工程でいちばん難しいのは焼きだと言うのも、ここです。一尾ずつ違ううなぎを、刻々と変わる火で焼く。しかも嘉門は蒸しません。やわらげる工程がないぶん、炭の前での判断が、そのまま仕上がりになります。
手間で言えば、ガスに替えたほうがずっと楽です。それでも替えないのは、面倒の先にあるものを知っているからだと思います。
家庭から消えた火が、焼き場には残った
木炭は、かつて家庭の燃料の代表でした。炊事にも暖房にも使われていたものが、やがて電気とガスに置き換わっていきます。林野庁の文章にも、そう書いてあります。そして、こう続きます。
蒲焼きや焼き鳥屋さんなどで業務用燃料として見直される
林野庁「木炭のはなし」より
家庭から消えた火が、蒲焼きの焼き場には残った。役所の短い一文ですが、うなぎ屋として読むと、なんだか誇らしい書かれ方です。
理屈で言えるのは、ここまでです。燃えても水が出ないこと。熱の七割五分がまっすぐ飛ぶこと。立ちのぼる匂いの中身が違うこと。その先は、言葉になりません。
嘉門の大将に言わせると、こうなります。ガスの火力では到達できない味が、炭にはある。
今日も焼き場では炭を熾して、一尾ずつ焼いています。
嘉門は岐阜・郡上大和で、蒸さずに炭火で直に焼く地焼きを守っています。ご注文を受けてから一尾ずつ焼いて、焼きたての香ばしさのままお届けしています。
郡上へお越しの折には、焼きたてを座敷でもどうぞ。
嘉門のうなぎを見る岐阜県郡上市大和町徳永164番地2