蒸すか、焼くか。うなぎの東と西は、浜名湖で分かれる
東京のうな重は、箸を入れるとほろりと崩れます。名古屋のひつまぶしは、噛むと皮がパリッと鳴ります。同じうなぎ、同じたれ焼きなのに、歯ざわりがまるで違う。その境目は、浜名湖にあると言われています。
蒸す東、蒸さない西
違いを生むのは、たったひと手間です。焼く途中で、蒸すかどうか。
- 開き方
- 背から開く
- 焼き方
-
白焼きにして一度蒸し、
たれをつけて焼き上げる - 口あたり
- ふっくら、やわらか
- 開き方
- 腹から開く
- 焼き方
-
蒸さずに、
そのまま焼き上げる - 口あたり
- 皮はパリッと、身はジューシー
蒸せば、身はとろけるほどやわらかくなります。蒸さなければ、皮は香ばしく焼け、噛むほどにうなぎの味が出てきます。
浜松のうなぎ料理専門店の方は、こう言っています。
実はまったく違う食べ物だと
思ってくれた方がいい
浜松市のうなぎ料理専門店の方の言葉。静岡新聞の記事より
境目は、湖の上にある
では、どこで東と西が入れ替わるのか。静岡のテレビ局が調べた先は、浜名湖でした。
湖の東に広がる浜松市は、東京と大阪のちょうど真ん中。市内のうなぎ屋は八十軒をこえ、関東風の店と関西風の店が、同じ町に並んでいます。
浜松市内のうなぎ屋のうち、関東風を出す店の割合。関西風は39%(SBS調べ。2023年の記事より)。
湖を西へ渡った湖西市では、蒸さない店が目立つようになります。東の岸は関東風が優勢で、西の岸は関西風が中心です。湖西市も、自分たちの町をこう紹介しています。
浜名湖周辺はちょうどその中間地点で、蒸しのありなし、捌き方、タレの味など、東西の特徴が混ざり合って、お店ごとに異なっています。
静岡県湖西市の公式ページ
境目の町には、境目らしい店もあります。関東風に開いて、蒸しは短く切り上げ、そのぶんしっかり焼く。ふっくらとパリッの、両方を取りにいく焼き方です。
江戸も、昔は蒸さなかった
意外なことに、蒸すやり方は、あとから生まれたものです。
食文化を研究する東四柳祥子さん(梅花女子大学教授)によると、江戸時代のなかばまでは、江戸でも腹から開いて、頭も落とさずに焼くのがふつうでした。蒸しが定番になったのは、江戸の終わりから明治の初めにかけてのことだといいます。
うなぎを蒸したのは、
まさにおいしさの追求。
東四柳祥子さんの言葉。静岡新聞の記事より
もっとやわらかく、もっと旨く。そう考えた江戸の人たちが、焼きのあいだに蒸しをはさみました。蒸さずに焼く西のやり方のほうが、古い形です。
地焼きは、名古屋に残った
もうひとつ、意外な話があります。
全国のうなぎ屋を食べ歩いてきた高城久さんによると、京都や大阪のうなぎ専門店は、半数以上がすでに関東風になっているそうです(2018年の記事)。関西風の本家で、蒸さない店が減っている。
では、蒸さない地焼きはどこに残っているのか。九州と、名古屋です。
地焼きのうまいうなぎを
食べるなら、
京都、大阪より、名古屋へ
高城久さんの言葉。食べログマガジンより
名古屋には、ひつまぶしがあります。刻んだうなぎに薬味をのせ、最後はだしをかけて食べる。あの食べ方は地焼きでないとおいしくない、と高城さんは言います。たまり醤油の濃いたれも、パリッと焼けたうなぎによく合います。
嘉門は、西の焼き方です
嘉門のある郡上は、浜名湖のずっと西、名古屋の北にあります。うなぎは腹から開き、蒸さずに、炭火でそのまま焼き上げます。たれのもとは、地元の畑中商店のたまり醤油です。
皮目はパリッと香ばしく、余分な脂は炭に落ちて、食べ終わったあとが軽い。ひつまぶしにしても、歯ざわりがぼやけません。
ふっくらの東。パリッの西。
嘉門は、パリッのほうです。
東のふっくらしたうなぎに親しんできた方にこそ、一度、西の焼き方を味わっていただきたいと思っています。同じうなぎが、こんなに違うのかと驚かれるはずです。
嘉門は岐阜・郡上大和で、蒸さずに炭火で直に焼く地焼きを守っています。ご注文を受けてから一尾ずつ焼いて、焼きたての香ばしさのままお届けしています。
郡上へお越しの折には、焼きたてを座敷でもどうぞ。
嘉門のうなぎを見る岐阜県郡上市大和町徳永164番地2